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医療情報の技術革命:業界のインサイト  トップ5

著者:
Ian Hamilton: Original Digital Limited カンパニーディレクター,       旧イーライリリー Medical Affairs Global IT
Shai Blackwell: カンバセーションヘルス EUマネージングディレクター

翻訳:
Miles Lee: カンバセーションヘルス ディレクター, カスタマーサクセス
Nanako Furuta: カンバセーションヘルス ビジネスアナリスト

初めに

新型コロナウイルスは、他業界と同様に、製薬会社のメディカルアフェアーズ部門にも多大な影響を与え、各企業のデジタル成熟度、性能、ツール、およびスキルが試されました。多くの場合、新しいデジタルソリューション、または、拡張されたデジタルソリューションの速やかな再考と活用を促しました。コロナによりどの業界においてもデジタル化が5年ほど加速したといった専門家の見解もあり、このデジタル化の流れが減速するという兆候は今しばらく見受けられないようです。特に海外では製薬会社のメディカルアフェアーズ部門においても、デジタルツールの活用が加速しており、デジタルを活用した業務体制が新しい「常識」となりつつあります。
今回は製薬業界のITの第一人者であるIan Hamilton氏に『メディカルインフォメーションのテクノロジー革命に関する業界のインサイト トップ5』をご共有いただきます。

1. 過去1年半にメディカルインフォメーション部門が直面した最大の課題と機会とは?

コロナ禍において、企業の多くはデジタルを取り入れざるを得ない環境に置かれました。デジタル化を成功させた会社では、業務効率化の向上もさることながら、メディカルインフォメーション(MI)部門の新しい業務フローへの適応力には目を見張るものがあります。ロックダウンや緊急事態宣言により、MR/MI担当者は医療従事者(HCP)を直接訪問できなくなりました。この状況下で、バーチャル会議やその他のデジタルツールを迅速に活用する必要があり、HCPとの新たなコミュニケーション構築が始まっています。また、バーチャル会議といったデジタルツールによるHCPとのコミュニケーションにより、対面が中心だったコロナ前に比べて、より頻繁にHCPと接する機会が増えたのことは大きな利点の一つではないでしょうか。
また、海外でのMI部門のデジタル化の流れで目立ったのが、デジタルポータルといわゆるバーチャルアシスタントの活用です。この新しいデジタルツールを活用することにより、人間の業務量を最小限に抑え、かつ24時間年中無休でお客様への対応ができるシステムが整備されました。中でも、最先端の技術であるバーチャル・アシスタントと音声テクノロジーによるコールセンター(IVR)の自動化によって、より多くの顧客の質問にご回答したり、顧客サービスの向上を提供することが可能となりました。このトレンドは今後更に進化し、将来的には人間とバーチャルアシスタントの両方が協働する「ハイブリッド型」でのサービス提供が基本になっていくと考えています。ですので、今後各企業は人間とAIの適切なバランスを明確化し、その企業戦略にあったAIの活用方法を社内でしっかり議論した上で導入していくことが大切です。
メディカルインフォメーション部門は治療の意思決定者では無いものの、医療情報は医薬品の適切かつ安全な使用を可能にするために必要不可欠な情報であり、多種多様な研究内容や、医療データを持っており重要な役割を担っています。しかしながら、我々の調査によると製薬会社のMIサービスを利用している医療従事者は5%に満たず、患者や介護者では、さらに少ない割合の方々にしか、MIサービスが活用されていないようです。なぜ、MIサービスはごく一定の医療従事者・患者にしか有効活用されていないのでしょうか?それはMIサービスがこれまで見つけにくく、使いにくく、そして、医療従事者の使用しているチャネル・ワークフローに含まれていなかったことが原因だと考えます。ですが、医療危機に直面している今こそ、医療業界はMI部門の役割と存在意義を再確認する必要があり、そしてMI部門はより広いターゲットにリーチできるように、デジタルチャネルを活用する必要があります。コンプライアンスの厳しい医療業界において、これらの取り組み、特に医療情報に関するデジタルツールの採択は、勿論難しいものであるのは確かです。各企業が、それぞれの現地の法令規制を遵守しながら、よりユーザーフレンドリーな医療情報を提供するのに大変なご苦労をされていることも理解しています。しかし、一部の企業はデジタルチャネルの活用に成功し、大きな進歩を遂げているのも事実です。例をあげるとすれば、ファイザー社とイーライ・リリー社はその代表であり、医療情報提供のデジタル化を成功させることは十分に可能であることを証明してくれました。

多くの企業がこの医療情報のデジタル化を成功させ、デジタルツールによって誰もがいつでも医療情報を入手できるようにするために、もう1点重要なのは、時代にあった法令の採択が必要不可欠だということです。アメリカのphactMIやヨーロッパのMILEなどの組織は医療情報のデジタル化を大きく前進させるさまざまな努力をされています。しかし、こういった組織だけではなく製薬会社、政府、テクノロジーベンダーなどを含む多種多様なセクター、そして企業が共同することによって初めて、現在のデジタル時代にあったルールや法令が作り上げられると私は考えています。

2. 顧客のデジタル需要の変化に対応するために、今後注目の分野やテクノロジーは何ですか。

まず一つ目にあげたいのが、海外では企業がコンテンツの作成と配信の戦略を再検討されていることです。従来の未承認薬・適応外薬に関する情報提供書類 (SRD)は、現在のオムニチャネルなデジタル戦略に合うように設計されていません。使用している全てのチャネルで一貫した内容を保ちつつ、特定のチャネルにあった内容にカスタマイズできることが最も望ましいです。これを行うのには多くの労力が必要なため、簡単な変更ではありません。しかし、成功できた企業はコンテンツの再利用や顧客リーチの効率化が可能であり、リターンは十分大きいのでは考えます。
一方、一部のグローバル企業では、クロスカンパニーのデジタル資産管理(DAM)ソリューションを取り入れています。DAMの採択によって、企業は患者などのエンドユーザー向けと医療従事者向けの両方のコンテンツや情報を一括管理、配布することが可能です。DAMはビジネスの全体像を把握することが可能である、というメリットもありますが、一方、製薬会社におけるDAMの採択には製薬業界ならではの課題として、DAMツールのほとんどは顧客をターゲットにデザインされているためにおこる、医療業界仕様のCRMプラットフォームとの連結不可があげられます。
オムニチャネルとカスタマイゼーションも、さらなる探求が求められる分野の一つです。海外の一部の企業は、企業ウェブサイトなどの一般的な情報提供ツールから、医療教育を含む教材、バーチャルアシスタント、臨床試験サービス、学会イベント、出版物、調査などの、より高度で、多種多様なサービスを盛り込んで情報提供するといった進化を見せています。顧客のプロフィールに基づいて、ユーザ一人一人に最も適切で快適なエクスペリエンスを提供するためのパーソナライゼーションも進んでます。また、匿名の利用者でさえ、利用者の検索履歴を取得、分析することによって、ある程度パーソナライズした情報、サービス提供が可能になっています。
そして、最後に注目点として挙げたいのが、セルフサービス型の医療情報提供ポータルです。特に米国では多くの企業が投資しているサービスであり、最近ではカナダ、ヨーロッパ、および世界中の市場でも導入が積極的に行われています。以前まではセルフサービス型の医療情報提供ポータルは、主に医療従事者を対象としていましたが、日々情報が変化するコロナワクチンの開発・普及状況により、製薬会社が患者に直接医療情報を提供する取り組みが多く見られました。また、情報を必要とする患者が、詳細情報を求め積極的に製薬会社が提供する情報を取りに行ったことによって、製薬会社と患者間での医療情報提供という、これまでなかなか進んでいなかった情報ルートが一気に発達しました。この様な医療情報の変化に適切に対応するために最も適しているツールが、対話型AIを使用したセルフサービス型のポータルです。複雑な医療情報を消費者のためにわかりやすく、且つ迅速に情報提供をすることができ、製薬会社とユーザの両方がスムーズにポータル使用することが可能です。

3. MI部門は、この進化に対応するためのテクノロジー(およびパートナー)に何を求めているとお考えですか?

理想的なテクノロジーパートナーとしては、医療関連のソリューションを提供する為の専門知識と経験が必要となります。多くのテクノロジー企業は製薬会社の経験やテクノロジーの経験を持っていますが、多くの場合、製薬会社のコマーシャル部門と協業しているケースがほとんどです。我々の経験では、パートナーが医療ニーズを完全に理解していない場合、ビジネスアウトカムのみにフォーカスしたプロジェクトとなり、当初想定したタイムラインで開発が進まないなど、後に多くのトラブルに直面することが多々あります。新しいテクノロジーを採用する初期段階で、現場と各分野の知識のあるMIチームのメンバーが関与しない場合、テクノロジーの実装の時間とコストが増加するリスクがあると考えます。医療部門には、業界の法令や規制へのコンプライアンスを確保するための条件や特定の要件などがあります。これらを理解し、医療従事者がどのように機能を活用かを十分理解した上で新しいテクノロジーの活用に取り組むことが重要です。
テクノロジー、特にデジタルは日々進化しています。クライアントと共に学び、成長することを望んでいるテクノロジーパートナーを探すことが大切です。新しい試みを始める場合、予期せぬ問題や壁に直面することは当然であり、その際に、一緒になって問題に立ち向かい、学びを得ようとしてくれるパートナーが必要だと私は考えます。


4. 社内外を問わずビジネスに影響を与えるテクノロジーを活用することに関して、医療チームが成功している事例やトピックはありますか?

顧客が満足する効率的で効果的なMA機能をテクノロジーで提供するには、2つの重要な要素があります。1点は、効率的で各サービスと連携しているツールであること。これによりユーザが、最適な情報、教育、サービスに効率的にアクセスでき、彼らの時間と専門性を最大限に活用することが可能となります。 二つ目は、顧客が情報にアクセスしたい時にいつでも情報を得られるよう、質問に対する情報に速やかにアクセスできるチャネルです。特に医療従事者は時間的な制約があり仕事量も多いですので、彼らにとっては情報源にアクセスしやすく、かつ速やかに情報を見つけられることが非常に重要であり、通常のワークフローの中でアクセスできることができることが理想的です。また、新しいテクノロジーを選択するときは、そのテクノロジーが企業のソリューションエコシステム全体にどのように適合するかを理解することが重要です。新しいテクノロジーの採択は、本来ワークフローへの大きな変化をもたらすのではなく、業務の効率化を手助けするためのツールであるべきです。個々のワークフローにできるだけ近いソリューションを医療従事者に提供することで、導入や受け入れを促進することができます。最近のトレンドしては電子医療記録(EMR)システム、5Gネットワ​​ーク全体、または高度な診断ツールなど「医療従事者の今知りたい、今欲しい」というニーズに応えるためのテクノロジーを提供するといった企業とのパートナーシップが増加傾向にあるように見受けられます。

5. 医療情報は製薬会社内の機能として、今後3年間でどういった位置付けに変化するとお考えですか?

ここ数年で、ますます多くのデジタルによる自動化を目撃することは確実です。デジタルソリューションはよりスマートになりますし、人工知能に対してもより身近で信頼を於けるという認識になるでしょう。このことにより最も恩恵を受ける企業は、臨床試験データ、リアルワールドエビデンス、患者の健康記録データ、またファーマコビジランスデータなどの複数のデータソースを統合して、統合されたデータからより多くのインサイトをを発掘、検出、発見できるようになると考えています。最終的には、顧客とのより価値のあるやり取りをサポートし、より安全な医薬品の使用を促進することができるようになるでしょう。これは、患者、医療、そして製薬会社にとって大変良いことです。製薬会社が注意すべきことは、製薬会社もしこの自動化を率先して行わなければ、他の業種・企業が行うこととなりやがて製薬会社よりも優位に立ってしまうことです。
新型コロナウイルスによりMIサービスの需要と利用が拡大しました。MI部門は通常、医療従事者と強力な関係を持っており、すべてのステークホルダー(規制当局、規則、製薬会社など)により、非プロモーションでエビデンスに基づく医薬品や治療情報の共有とそれ以外の情報共有と境界をより明確にすることで、この関係はさらに改善されると考えます。医療情報提供は、医療従事者の好みやニーズによりオープンで信頼のおけるアクセスを提供することで、よりユーザターゲットを絞りカスタマイズすることができます。仮に匿名の顧客であった場合でも、辿ってきた道程や情報をどこで取得しているのか理解することで、ある程度のカスタマイズを実現することもできます。

最後に

最後に、今回のパンデミックでは、新しいワクチンや医薬品をこれまで考えられなかったような短期間で市場に投入したり、サービスや人々をデジタル時代に合わせて変革したりするなど、製薬業界が結集し、協力・適応することが可能であることを証明するきっかけとなりました。メディカルアフェアーズにとって、これらの背景には、お客様からの問い合わせ件数の大幅な増加、進行中の臨床試験、医薬品供給の信頼性、さらには奇跡的な治療法や医薬品に関する誤った情報を伝えるフェイクニュースへの対応などがありました。今回の各製薬会社の対応は、業界の信頼性とレベルを大幅に向上させるとともに、デジタルの探求から得られる学びを制度化することができたのではと考えています。今後重要なのは、ここから躊躇することなく行動を起こすことです。世界は常に前進しており、製薬会社も惰性を打破するための一歩を踏み出さなければ今後他業界からも遅れをとることになるのではと懸念しています。

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