2021年も残りわずかです。今年、流行った言葉といえば、個人的には「メタバース」が思い浮かびます。Googleトレンドによれば、特に日本においてメタバースという言葉が注目されたのは10月末から。このため、残念ながら「新語・流行語大賞」には選ばれませんでしたが、多くの人が最近耳にした言葉ではないでしょうか。

 メタバースとは、「高次の」や「超越した」という意味を持つ接頭語「メタ」と、「宇宙」や「世界」を意味する「ユニバース」を組み合わせた造語。主にはインターネット上に展開される3次元の仮想空間のことを表します。10月から注目されたのは、米Facebookが社名を「Meta」に変更すると発表したうえで、マーク・ザッカーバーグCEOが「これからはメタバースに注力する」と宣言したからです。

 3次元の仮想空間という言葉だけ見ると、さして新しい感じはしないかもしれません。すでに製造業においては3次元ツールを利用して設計するのは当たり前ですし、建築物においても3次元ツールで設計した後に、建物内の3次元空間上で各種のシミュレーションをするのが常識となっています。

 ただし、そういった3次元ツールを利用したシミュレーションとメタバースが根本的に違うのは、アバターの存在です。メタバースにおいては、自分のアバターを3次元の仮想空間に配置して、各種のコミュニケーションを行って体験したり検証したりすることが一つの醍醐味です。単なるシミュレーションツールではなくメタバースはコミュニケーションツールの範疇に入ります。

 このようなメタバースの世界は、医療の分野でもおおいに活用される可能性があります。簡単に想像が付くのはオンライン診療での活用。オンライン診療は2018年度診療報酬改定で保険適用され、2020年4月にはコロナ特例で各種の制限が解除されましたが、なかなか普及にはいたっていません。アバター同士が交流すれば、患者側は自分の症状を的確に伝えられるでしょうし、また処置などに関してはアバターの体を使いながら正確な手順が教えられます。何といっても新しい技術ですから、年老いた人から見ると頭の活性化にもつながるかもしれません。メタバースが医療業界を変えていくのは間違いないでしょう。

 話は変わりますが、中国においては中国国家語言資源モニタリング・研究センターが選定する「ネット用語トップ10」の5位に「メタバース」が入りました。中国では今年、過酷な競争社会は避け、最低限の生活だけが送れれば良いとする「寝そべり(タンピン)現象」が流行し、同ランキングの7位に入っています。メタバースの世界では、自分の代わりにアバターを躍動させることもできますが、そこでも「寝そべり」は出現するでしょうか?

(タイトル部のImage:arkgarden -stock.adobe.com)